2012年08月28日

浅草 鰻 色川

『浅草の名物鰻屋』

外観.jpg

泣く子も黙る鰻屋「浅草 色川」。
この店の名物は蒲焼きではなく店主だ。
時代劇のセットのような古びた店内で、これまた黒澤映画にでも出てくるような頑固親父がジロリと客を睨み、時に啖呵を切る。常連客は店主に媚び、一見客は怖くてものも言えない。しかしこの店には小学生以下入店お断りなんて野暮な事は書いてない。親の態度を見たらどうするべきかは子供にだってわかるのだろう。だがけっして難しい親父の横暴な店ではない。客が「ご馳走様でした」と言って席を立てば、店主は「おぅ、ありがとな!外暑いから気をつけろよ!」と返して送り出す。一見の客にだって「ありがとうございます」って挨拶するんだから礼儀はちゃんとわきまえている。

店主の十八番は「河岸の休む日曜に営業している店は作り置きでろくなもんじゃねぇ」という啖呵である。五月の鯉の吹き流し、短気と喧嘩は江戸の花を地で行っている店主である。そんな店主をメディアは追いかけ、興味本位の観光客がどっと押し寄せる。それをものともせずにバッタバッタと鰻を焼いては次から次へと客を回転させていく親父。こんな事が連日続くのだからから仕事はきついだろうが店は大繁盛。親父は儲かって笑いが止まらないだろう。

お品書きは、肝焼き、ゑり焼き、蒲焼き、白焼き、鰻重(小)、鰻重(大)のみ。オプションでの肝吸いもこの店にはない。混雑時にはゆっくり酒を飲むことも厳禁。それを証拠に追加注文禁止という驚きのローカルルールがある。まったく客を回転させることしか親父の頭の中にはないようだ。注目すべきはその特異な鰻の焼き方である。炭火と鰻の位置が異様に近いのだ。魚は遠火の強火で焼くのが常識だがこの店は近火の強火ときた。こんな焼き方をしたら時間は早いだろうが、焼けむらが出来るし焼けた所はまっ黒こげだ。せっかく備長炭を使ってもあれだけ近火で焼いたら遠赤外線効果はほとんど無いと言っていい。この店の蒲焼きがふわっとろっとした仕上がりにならないのは科学的にも証明出来る。

鰻重(大)3.jpg

鰻重(大)2.jpg

この店が儲かっていると私が判断する理由は、客の回転の早さだけではない。仕入れの鰻にも秘密がある。この店で使う鰻は「池袋 かぶと」と同じくらい小さくて細い鰻で、おまけに大きさが不揃いと来ている。これはどう見ても他の店では買ってくれないハネ物の鰻を安く仕入れているとしか思えない。そして偶然だろうか、この店のメニューにも「池袋 かぶと」と同じ「ゑり焼き」がある。「ゑり」って鰻の頭の事で普通は捨てる部分だぜ。
ある客がその「ゑり焼き」と壁に書いてあるのを「炙り焼き、炙り焼き」って何回も叫んでおまけに「炙り焼きって何ですか」って質問したからさあ大変だ。それが「わからねえもんは注文するな」の一声で見事に納まったから感心するよな。ゑりを炙りと読む奴もどうかと思うが、ゑり焼きなんて捨てる部分を食わせるケチな店に行ったことが無いという証拠だと思うよ。

魚河岸の休みの日は定休日だと豪語している店主だから、店に鰻を活かしておく設備が無いのは明白である。創業は江戸時代だから井戸ぐらい有ってもよさそうなものだが散水設備を設けるには店が狭すぎるのだろう。よって鰻の餌切りは卸業者に外注している。鰻の餌切りとは、籠に鰻を入れて餌を与えずに上から清水のシャワーを3日から6日ぐらい浴びせ続ける作業である。言い換えれば鰻の断食。身体の中の汚いものを全部出してしまおうというわけだ。シャワーを浴びせる期間は季節よって違うが夏場が長いと聞く。「浅草 色川」はこの餌切りを業者に任せているとはいえ店主の指導が良いのであろう、鰻に餌臭さやカビ臭さは全くない。大きさの不揃いな小さな鰻を使い、表面だけ斑に焼色を付けた、お世辞にも綺麗とは言えない蒲焼きだが味だけはたいへん美味しいと言っておこう。

最近の鰻を取り巻く環境はかなり悪いようだ。稚魚が激減して養殖業者が卸価格を値上げしていると聞く。店内には鰻の値段高騰の新聞記事が貼ってあったが、そんな無粋なものを貼らなくてもこの店主に文句をつける度胸ある客はいないと思うよ。

【総 括】
昭和も遠くなった昨今、こういう客を叱ってくれる親父は少なくなった。昔は浅草に限らず怖い店主のいる店がいっぱいあったものだ。近所の子供はこんな親父に躾られて立派な大人になっていったんだよ。どこの老舗も大学出のボンボンが跡取ってつまらなくなってきた浅草だ。古き良き、そしてやんちゃな浅草を象徴する最後の名物頑固親父だから、この先少しでも長く店をやっていて貰いたいものだ。スカイツリーも開業し益々観光客が押し寄せるだろうから店主の啖呵にも仕事の粗さにも磨きが掛かり、店の人気も鰻登りになるだろう。しかし私の知人が東京に来て鰻を食べたいと言っても連れて行く店ではない。
posted by ブディーノ at 13:20| Comment(3) | TrackBack(0) | うなぎ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
わたしも、かのピエモンテレストランで、ほぼ同じような経験をしたものです(w

検索でこちらのブログを知り、たとえば鰻についても「平八」はまともで、「かぶと」最低という認識も全く同意だったので、うれしくてついコメントしてしまいました。サローネやカンテサンス(は記事ありませんが)など、ソースもまともに作れないフレンチなのになぜ人気?という感覚も(失礼ながら)近いかな〜なんて・・・

更新が昨年から止まっているようですが、もう書かれないのでしょうか?

色々な部分で感心してしまう良ブログなので、今後のためにもブックマークさせていただきました。

失礼します。
Posted by Nebbiolo at 2013年01月23日 19:17
Nebbiolo様

コメントありがとうございます。

かのピエモンテレストランで痛い目に合いましたか。ピエモンテ料理の味は素晴らしいのですがあのマダムはいただけません。煮て喰っても焼いて喰っても不味いでしょう。

サローネ2007のソースは全て柑橘系でした。カンテサンスのシェフは「旨すぎるソースは素材の味を邪魔する」と言っているそうですが、味の濃すぎるソースしか作れない言い訳でしょう。

最近ブログのアップがないとのご指摘ですが、けっしてやめたわけではなく滞っているだけです。頑張りますのでまた読んで下さい。
Posted by ブディーノ at 2013年01月29日 09:10
ブディーノ様

お忙しいところお返事ありがとうございました。
ちょくちょく覗きにきますので、これからも一本筋の通った記事を楽しみにしております。

特に食べログの弊害については思うところは同じです。
その点で内部役員の村上さん(でかぷり夫)の罪は重いといえるでしょう。

失礼します。
Posted by Nebbiolo at 2013年01月29日 10:55
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